ユーザーへのインタビュー

私(M)が、児童養護施設のユーザーであったレイさんの文章を読み続けていると、どうにも想像しかねる言葉がたびたび出てきました。


『家庭というモノがわからない・知らない』という類いの発言です。


そこで生活の基本である『食事』に焦点を絞り、彼女に質問を投げかけました。以下がその記録です。
(質問は、Web上の掲示板を使って行いました。【レイ=Lei 】とは上記の女性のペンネーム)
 レイさんのブログ http://blogs.yahoo.co.jp/leiwingjp/6979370.html#7061276

2005/07/01(Fri)


M:私は児童養護施設を知りません。レイさんのいた施設について教えて下さい。
 【ご飯を食べるまで】に何をするかを、ざーっと考えながらの質問です。


Lei『はい、ご質問形式にしていただけると実はすごく助かるんです。なぜかというと、自分は何を知らないかを自覚しきれていないので、自ら率先して語りにくかったのです。ありがとう。』(注:質問への答えは、わたしが園生だった頃の状況であり、今現在とは必ずしも一致していないと思われます。そしてわたしは「大舎制」という大勢の子どもが一斉に生活する場所で育てられましたので、その前提での答えである事をお断りしておきます。)


<以下質問者は私(=当ブログ管理人=M)、『』内はレイさん(=L)の返答です。>


1:台所はどんなものでしたか。
 『基本的に台所という感じよりはもっと業務用の厨房設備という感じです。』


2:調理器具は自由に使えましたか。
 『不可能です。』


3:誰がご飯の支度をしますか。
『料理は「お勝手のおばさん」という食堂の人。 配膳は当番が決まっていて子ども達がやっていたそうです。掃除当番のような全員がやる当番です。』


4:ご飯支度の手伝いはどんな事をしましたか。
 『配膳と皿洗いだけ、それ以外は食品に直接関わる事は一切していません。』


5:はじめての米研ぎはいつでしたか。
 『就職してからだと思います。』


6:メニューを決めるのは誰ですか。
 『施設の場合は栄養士さんがいます。ですから栄養士さん。』


7:お買い物はどうしてましたか。
 『施設を出るまで食料品店で夕食の買出しを体験した事が一度もありませんでした。』


8:誰が食器洗いと片付をしますか。
 『これは当番の子がやります。』


M:なんか、箇条書きで愛想も無くってスミマセン。
 『いえ、とんでもありません。すごく助かりました。丁度わたしの場合は後輩という存在がいましたので、体験記を書こうと思ったので、同じ様に同じ施設を出た人にインタヴューした覚えがあるのです。』


M:立て続けにすみません。昼ご飯を食べながら、ぜひ聞いてみたいと思いつきました。
 『それでは・・・ 続けて答えてみましょう。』


9:体調がイマイチなどの時、おかずを選べましたか。
 『施設では自分でおかずを選ぶ事はできません。子ども本人も思いつきもしません。出されたものは絶対に残してはいけません。たとえどんなものでも・・・。』 


10:突然腹が減った時、どうしてましたか。
 『お花の蜜・・。いや、これじゃ答えにならない。パス。』


11:お湯を沸かす機会はありましたか。
 『火を扱う事はできませんし、設備がありませんでした。』


12:お金を使う機会はありましたか。
 『イベントで「お買い物の日」があると硬貨を握って職員に引率されて買い物に行けたような気がします。』


13:ご飯の食べ方で、その人の体調の善し悪しに気が付く事があります。 食卓で「今日何かあったの?」又は「具合悪いの?」という類いの会話は隣同士でありましたか。
 『基本的に私語は厳禁です。黙祷のあと、祈りを捧げて静かに食べなくてはいけません。(あれ?そうだったよね、何か混じってるかもしれないけど・・・)』


14:職員から、子ども達へ『13』の内容の問いかけはありましたか?
 『もし会話があるとするなら、具合のよしあしじゃなく、スケジュール管理的な質問事項だった気がします。本日は何時から集会があるとかなど。食堂にはテレビもありません。あったとしても見てはなりません。』


 『団欒というものが、テレビを見ながら食事をするという事に最初はすごく抵抗がありました。』


M:沢山の質問にお答え頂き有難うございます。本当に有難うございます。最後の質問です。


15:食事は楽しかったですか。
 『食事的には飲み込むっていう感じで、食事の雰囲気はよく思い出せません、ごめんなさい(汗)。』


16:この生活が何歳から何歳まで続きましたか。
 『?〜〜〜高校卒業までです。』
 (注:資料によると、児童養護施設は【2歳からおおむね18歳の子どもたち】が暮らしているそうです)


<他の方からのご質問と返答>
>レイサンはいま楽しい食事をしてるのでしょうか...家族ができた今、食卓を囲み、幸せかなぁ、とちょっと気になったのでした。


『わたしは粗相をするとものすごく嫌味をいう癖があるんです。こぼしたりするのもいちいち文句を言うし、食事中にテレビを見る事も許せなかったり、彼(夫)は普通に家庭でしている事が、わたしの目にはふざけているようにしか見えず、怒ってばかりいました。(カッコ内は著者の加筆)

 でも、食事というものを楽しい時間にする為には、滞りなく終わらせる事ばかり考えてはいけないのだと思います。でも、生まれて始めての家庭生活が結婚生活なので、わたしにとっても学ばないといけない事だらけです。

 少し余談ですが、初めて夫の実家で食事をした時、食器棚から出した食器を洗って使おうとしたら、お姑さんに「食器棚から出した食器を又洗うなんて、まるで汚いみたいじゃないの」と言われてしまいました。

 なんでこんな癖があるのか知りませんが、今考えるととても失礼な事をしているときづきました。その頃はわたしにとっては当たり前だったので、何故そんな事を言われるか判りませんでした。』

以下は著者Mの解説と感想。


*1.〜8.は最初の動機にから出た質問。


*9.〜12.は、一旦、答えを頂いた後での質問。1.〜8.の答えを読んでの『なんだか嫌な感じ』を受けて思いついた。


*13.〜14.は、9.〜12.の返答を頂く前に、さらに質問した。自分が昼ご飯を食べている最中に、【9:体調がイマイチなどの時、おかずを選べましたか。】が、ものすごく気になって、生まれた。


*15.〜16.は『まとめ』。【13.〜14.】の返答を頂いてから、【 15:食事は楽しかったですか。】と問うたのは、「いや、それにしても、ちょっとぐらいなんかいいことあったんじゃ」というMの残酷で身勝手な甘い期待と、「事実記述だけではなく、ご本人に感想をお願いしよう」という両方の気持による。


 この問答が進むうちに食事風景のイメージがどんどんリアルになってきて、《人の関わりの暖かさの【無さ】》に、私はすっかり悲しくなり、最初の動機はどこかへ飛んでいく。


 小さい子は特に、上手に自分の体調を訴えるが出来ないと思うので、食事の様子は重要ではないのだろうか?
 いったい、その場にいた子ども達は、具合が悪い時はどうしていたんだろうか?
 はじめてのお買い物は18歳で体験する事だろうか? 相談出来る人も無しに。


 そして、終わりの方にあった『でも、食事というものを楽しい時間にする為には、滞りなく終わらせる事ばかり考えてはいけないのだと思います。』という彼女の言葉に《問題》の深さと大きさを垣間見る。
 毎日の雑多な生活の《いちばん楽しい時間》は『滞りなく終わらせる事』として扱われていたように感じられはしまいか?
 職員もそこでご飯を食べていて、いったい何を思っておられたのだろうか?
 なぜ《ご飯》を前に気が緩んだりしないのだろうか?
 この雰囲気は、まるで懲罰的なものに感じられはしないだろうか?


 彼女の返答全てが、私には痛々しく感じられる。