『サイダーハウス・ルール』 作:ジョン・アーヴィング

The Cider House Rules / John Irving 訳:真野明裕

ラーチは日記にこう記した。
「ここセント・クラウズ(孤児院)で、われわれの抱えている問題はひとつしかない。いつまでも孤児が絶えないのは問題の部類には入らない。それは解決し得ないことなのだ。それについては自分は最善を尽くし、孤児たちの面倒を見てやるまでだ。ここの予算が今後とも少なすぎるだろうこともまた問題ではない。これまた解決されそうにない。孤児院というのは資金にこと欠くようにできている。本来そういうものなのだ。(中略)
 ここセント・クラウズで、われわれの抱えている問題はひとつしかない。その名はホーマー・ウェルズ。われわれはホーマーとはこれまでとてもうまくいっていた。孤児院をまんまと彼の家庭にしおおせたのであり、それこそが問題なのだ。州の、いや、いかなる公共機関のであれ、施設に、本来家族に注ぐべきものとされている愛情のようなものを持ちこもうとすると --- もしその施設が孤児院で、そこに愛情を持ち込むことに成功すると --- 奇怪なものを生み出すことになる。よりよい生活への中間駅でない孤児院、起点にして終点であり、孤児が受け入れる唯一の駅であるような孤児院。
 冷酷にしていいという理由はなにもないが、しかし、(中略)ホーマー・ウェルズのような者 --- セント・クラウズが本人にとって今後も唯一の家庭であるがゆえに、まさに孤児そのもの --- を生み出すことになる。神よ(いや誰でもいい)、我を許し給え。わたしは孤児をこしらえてしまった。その名はホーマー・ウェルズといい、彼はいつまでもセント・クラウズの一員でいるだろう」

舞台:1930年代・アメリカ 登場人物【ホーマー・ウェルズ:孤児】【ウィルバー・ラーチ:孤児院長・医師】


*つぶやき:ストーリ全部を絶賛する気は無いのだけれど、ラーチのこの台詞が、とても気になりました。


サイダーハウス・ルール〈上〉 (文春文庫)

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