もし、私がうっかり死んでしまったとしたら…


『現場に居た事も無いくせに、外野が分かったような事を言うな』


 こんなことを言われたら、私には咄嗟にこれにうまく反駁する事ができない。思わず口をつぐんでしまう。なにせ『現場』に居た事が無いのだ。児童養護施設という現場に。ボランティアもした事が無い、里親にもなった事が無い。児童相談所はどこにあるのかすら知らない。だたのしがないオバサンだ(ああ、すでに若くもない)。


 でも、たったひとつモノを言うための足掛りがある。


「もし、私がうっかり死んでしまったとしたら、
 残された我が子は、どこで、どうやって生きるのですか?


と、想像してみることなのだ。例え、子どもがいなくても。

(どうか気を悪くしないで頂きたい。私達は、どんなにちょっとの未来でも、本質的には予測する事ができない。日々、楽観的に命を信じて生きてはいるけれど……。)


 親類が預かってくれる? 年齢が子育てをするには行き過ぎているかもしれない。経済状態が安定していないかもしれないし、実子が小さすぎて他の子には手が回らないかもしれない。もしかしたら、ただただ面倒はおイヤかもしれない。
 

 そこで、国の出番である。子どもといえど国民だ。あなたや私の子どもが1歳なら乳児院、学齢に達していれば児童養護施設で生かしてもらえる。


 「ああ、良かった。でも、それはどんな所なのだろう?
 

 あなたや私は生きてさえいれば、我が子のために良い小児科を探す。良い幼稚園・保育園を探す。良い塾だって探しだすかもしれない。私達はあらゆる『良い○○』を求めて、それこそ必死で探すだろう。我が子を想って。

 良い小児科・幼稚園・保育園を探すとき、私達はどのようにするだろうか。経営者が用意した宣伝チラシを信用するだろうか? いや、それよりも近所の評判を聞いて回るだろう。実際にそこに行って来た人達の話しを聞いて回るだろう。今時ならば、インターネットが井戸端会議の場になるかもしれない。

 もし、私達が良い場所を選び損なったなら、どうするだろうか。まずは我が子が受けた苦痛(被害)について、我が事のように怒りだし、誰かにそれを相談し、苦情を申し立てるかもしれない(たとえ的がはずれていても堂々と)。または騒ぐ事で起こる二次被害を恐れ、我が子を連れてそっとその場を去るかもしれない。その後、その場所についての悪評を言い立てるかもしれない。もしかしたら裁判を起こすかもしれない。


 でも、それと同じ事を児童養護施設について考えたり、おこなったりした事があるだろうか?


 しつこく繰り返すけど、あなたは、もしも『我が子を残して、あなたや私がうっかり死んでしまった』時のために備えて、『良い児童養護施設』を探しておられるだろうか? そんな悲し過ぎる出来事を、元気で生き生きとしている最中に『必ず起こり得る事態』とまで想定し実行する事は、大変難しいと感じる(当たり前だ)。あるいは、施設の存在自体に、理想としての『救い』を夢み、納得し、深く安堵しておられはいまいか。例え、直接施設に行って確かめた事が無くとも。


 こうして『我が子を想う親の情熱』による監視の眼からこぼれてしまった児童養護施設が、その実情を世に知られる事は少ない。


 子ども時代の全てを、どこでどのように過ごしたのか。それは、人間の一生にとって『重大な影響を及ぼすことだろう』なんていうことは、簡単に想像できる。でも、家庭で育ったあなたや私が、子ども時代の全てを『施設』で過ごすことの影響をリアルに想像する事は、とても難しい。


 どうか、少しだけでいいから立ち止まって欲しい。今まで一度も児童養護施設に関係のなかったあなたや私は、だからといって、本当に『外野』なのだろうか?
 
 なぜなら、誰にも明日は分からない。
 もしかしたら、私達の子どもが施設で暮らすかもしれない。
 もしかしたら、私達こそが施設で育ったかもしれない。 


 『子ども(人間)が育つ場所』という事について、私は改めて思いを巡らせずにはいられない。親になり損ねたこの夏の夜に。
(*9/2:加筆訂正)

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